ちょうど40歳になる頃、長らく勤めていたデザイン事務所の代表が亡くなり、不本意ながらも自身が事務所を引き継ぐ事になりました。
仕事の方は20年程のキャリアがあり、それなりの自信があったのですが、会社を切り盛り出来る様な甲斐性は自分にはなく、
(出来るものならば一社員で居続けたかった・・・)
と思っていました。
経営者になる事に対しては、自身が一人身だという事と、それなりの蓄えがある事が多少の気休めになっていました。
ですが、設備の老朽化に伴なう出費や様々な経費の支払いなど、従業員でいた頃は考えなくて良かった問題が次々と頭をもたげてきました。
更に、折からの不景気で業績はどんどん悪化していって。
私は精神的に不安定になり、遂には軽いうつ病になってしまいました。
以前あった蓄えも殆どなくなって、また、うつ病の治療にも専念したほうが良いだろうと、結局事務所は5年程で廃業することになりました。
事務所をたたむよりも前から同業者の人達とよく話していたのが、「この業界の先行きは決して明るくなく、大きな印刷屋か年配の方が一人でやっている様な所しか生き残る事が出来ず、極端に二極化するのでは」という話がありました。
以前から業界内では、「会社は景気が悪くなるとお茶代と印刷費を真っ先に削る」と言われていました。
景気の先行きがなかなか上向かない状態が続けば、その傾向はなおさら強くなります。
さらに、PCの普及により、ちょっとした物なら会社内の誰かが作ってしまうと言う状況になってきていましたので、どう考えたって明るい材料などありはしません。
そんな事もあり、事務所をたたむと決めた時に違う業種への転職を決意するのですが、折角のキャリアを全て捨ててしまう事もないだろうとも考え、異業種ながらも使い慣れた同じPCソフトを使う仕事を探す事にしました。
転職活動を始めた時点で45歳と言う年齢もあり、なかなか決まらないとは覚悟していました。
ですが、まさか自分の年齢と同じくらいの数の会社に応募しなければ決まらないなどとは、全くもって想像すらしていませんでした。
ハローワークの求人情報が転職活動の中心でしたが、一応他の転職サイトにも数多く登録はしておきました。
ただ、どうもそちらの方は自分にとって非現実的な求人ばかりで、最終的には見るのを止めてしまいました。
家のPCで求人情報を見て、これはと言うものがあれば出向いて紹介を受けると言う感じでしたが、探している業種では書類選考からのところが多く、その書類選考すら突破できない日々が長く続きました。
そんな不採用通知が届き続ける日々が続くと、そのうちに
(自分は、世の中から必要とされていない人間なのでは・・・)
と考える様にもなり、事務所をたたんだ後の休養でほぼ完治したうつ病がまた再発しないかと心配になる程でした。
ですが、本当にそのギリギリのところで、私は1社から内定を受け取ることが出来たのです。
その会社は、工事用の看板製作を主事業とするデザイン会社でした。
デザイン系の業務は私の希望するところでした。
希望する業種の会社に入る事ができ、とても喜んでいたのもつかの間、なんと勤め始めてたったの5日間で解雇を言い渡されました。
面接時に、一応業界経験者ではあるもののPCソフトの操作以外は初心者同様だと説明していたのですが、二日目からは
「手が遅い!」
──だの、
「すごく要領が悪い」
だのと、周囲から注意・小言のオンパレードを受けまして、挙句の果てには大ベテランと比較する様な事まで言われる始末。
さらに、前の会社よりも業務範囲がとても広く、業務用品の配置や仕事の流れも把握出来ていないうえに、設計図や原稿を見てどういう物かを理解して、行動をしなくてはいけないような状況で、完全にフリーズ状態でした。直属の上司から、
「──いったい、何にそんなに手間取っているんだ?」
と聞かれても、
「全てです」
としか答えようがありませんでした。
解雇を宣告されたのは5日目のお昼過ぎですが、その日の朝にはもう決まっていた様で、実質4日間の仕事ぶりを見て判断されていたのでした。
私は手が早い方ではありませんが、この会社でこなした仕事は、素人としては普通くらいの速さであった事は断言できます。
たったの4日間で判断されるなんて、訳が分かりません。
まず一つ勉強になった事は、同じPCソフトを使って作業をする職業であっても、求人票にデザイナーとかデザインとかいった文字が躍っていたとしても、印刷関係のデザインとは全く違うと言う事です。
作る物は質を殆ど求められずに、とにかく早く仕上げて数をこなす事に全力を注ぐ。
良いモノを創ろうと言う感覚が全く感じられず、指示された文字や図形がそこにあればそれで良いという、──そんな感じです。
「デザイン」という単語に引かれて覗き見たこの業界ですが、お金が手に入った事以外は全く良い事はなく、新たに色々な事を見直す事が出来たものの、無駄に年齢を重ねてしまったと言う思いも少なからずあります。
また、これから就職活動をしようと思っている方々も、「デザイン」とか「看板デザイナー」と言った謳い文句には、くれぐれも注意して頂きたいと思います。普通にデザインを志す人がこの業界に入っても、なんの満足もやりがいも見出せませんから。
あともう一つ思ったことは、どうもこの業界は「社員を育てる」という考えがない様で、働いている人達が全く初心者の気持ちを理解する事が出来ない人達であり、自分が出来る事を「何故おまえは出来ないのか」と言う感覚の人ばかりである事です。
まぁ、その事に関してどうこう言うつもりはありませんし、新人が育たなければその会社の未来はないだけの事なので、自分には何の関係もない事でもあります。
ただ、自分が他人に仕事を教える立場になった時に、「こうはならないでおこう」と言う事を強く思った次第です。
◇ ◇ ◇
結局、転職活動は失敗したのですが、以前の得意先の印刷屋さんからお声がかかり、今は以前の様な商業印刷の世界で働かせて頂いております。
業界の先行きを見通せないとして転職する事にした訳ですが、一周廻って元の鞘に納まってしまいました。
ただ、転職活動とそれに伴う一連の顛末も全く無駄と言う訳ではなかった様で、他の業界を覗き見した事で改めて見えた事もありました。
それは、「自分はなんて幸せな世界に居たのだろう」という事と、「自分はなんてやりがいのある仕事をしていたのだろう」という事です。
少しでもいいモノを創る為に打ち合わせを重ねるという、数や量が全てではない仕事の進め方は非常にやりがいを感じ、それこそがこの世界の魅力の一つであるという事を思い出す事が出来ました。
自分が忘れていたものに気づき、なんとかその世界に戻る事が出来たのですから、今度は二度と手放さない様に必死にしがみつき、定年までのデザイナー人生を全うしたいと心から思っています。
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